教職員のための
教育制度を紐解く
2040年を見据えた私立大学の振興方策とは
2025年12月
3 あるべき私大強化策とは
明治以降の我が国の近代化の過程において、義務教育の普及と並んで、近代国家が必要とする政治・行政エリートや高度技術人材の育成が不可欠であり、そうした役割を旧帝大や官立の高等専門学校が担ってきたことは紛れもない事実です。しかし、わが国が、太平洋戦争後、驚異的な経済復興を遂げ、経済大国に成長する中で、多様な分野における高度人材が大量に必要とされ、そうした需要に応えて私大が大きな役割を果たすようになったこともまた否定できません。今日、私大の存在なくして、わが国の発展はおろか存続すら不可能な状況になっていることは、これまで見てきたとおりです。
にもかかわらず、高等教育に対する国の資源配分は、旧来のまま、著しく国(公)立大学に偏っています。高等教育予算の増額は必要ですが、依然として公務員時代の事務組織・業務執行の非効率性が残る一方、研究力の高さによって外部資金、寄付金獲得の可能性が大きい国立大よりは、少ない補助金で効率的な運営を行う私大に対し、より重点的に資源を振り向ける方が高等教育全体の教育・研究のコスト・パフォーマンスが高くなることは明らかです。
言うまでもなく、約600校の私大に一律、平等に資源配分を行うのではなく、首都圏、近畿圏など大都市にあって都市の魅力によって学生確保が容易な大規模私大に対してよりも、地方に立地する小規模私大11. 収容定員4千人未満。2025年度225校。[11]の中から、学生にとって魅力があり、地元に対する貢献度の高い私大を選んで手厚く支援すべきです。
その判断基準は、自治体・地元企業の各私大の地元貢献度に関する総合評価(地域課題の解決の取組、地元企業とのインターンシップ、共同研究の状況、地元就職率、授業料が国公立・私立大が同程度とした場合の高校生の大学選択行動調査結果等)に拠ってはどうでしょうか。
地方私大は、学生確保が存続の鍵であり、学生中心の大学づくりに注力します。そうした私大が生き残ることは、わが国の高等教育の質向上に貢献するだけでなく、地域にとって極めて重要な高等教育機関の消滅を防ぎ、地域振興に大きな役割を果たします。職住接近、自然豊かな地域が私大存続によって活性化すれば、住居費、交通費など生活費の高騰が続く大都市圏から地方への人口移動の流れが生まれ、長い目では少子化にも歯止めがかかります。
地方自治体の中には、地域活性化のために公立大学設置(あるいは私大の公立化)を検討しているところもあるようですが、大学運営に知識・経験を欠く自治体自ら運営に乗り出すよりも、既存の私大と連携し、進学者に国公立大学並みの額になるよう奨学金を提供することによって当該私大を支援する、あるいは自治体が望む新学部・学科の設置を支援する方がはるかにコスト・パフォーマンスがよく、私大のもつ大学運営の知識・経験を生かすことができますし、将来生じる施設の建て替え経費などの負担もなくなります。

注釈
1. 文部科学事務次官決定「2040年を見据えて社会とともに歩む私立大学の在り方検討会議設置要綱」(2025年2月21日)。
2. 国立大は58校。
3. 上場企業トップ数は、国立大707人に対し私大1,232人、役員数は国立大7,730人、私大11,927人。(文科省:有識者会議第6回会議提出「関係データ・資料集」33p)
4. 2026年度概算要求では、私大に対する経常費補助は、3,124億円(2025年度比145億円増)に留まっている。補助額は、2011年度の3,385億円以降減額が続き、2021年度にはついに3千億円を割り込み、今日に至っている。
5. 文科省ガイドラインによる。
6. 有識者会議第1回会議提出「参考データ・事例集」41~43p。
7. 「複数大学等の連携による機能の共同化・高度化を通じた経営改革支援事業」。1件3,500万円。
8. 吉備国際大学通信制課程と九州医療科学大学による連合国際協力研究科。
9. 東京女子医大と早大による共同先端生命医科学専攻(2010年)など。
10. 米国カリフォルニア大学(州立)の授業料は、州内学生年間約230万円、州外学生約820万円(1ドル150円換算)。
11. 収容定員4千人未満。2025年度225校。


