PROFILE
1990年6月6日生まれ。北海道旭川市出身。体育教師だった両親のもと、小学校から水泳や器械体操、サッカーなどさまざまなスポーツを経験。小学2年生からはサッカー一筋で、中高とサッカー部に所属し、サッカー歴は約10年に及ぶ。京都大学進学後、“日本一を目指す部活”への憧れと当時のアメリカンフットボール(以下アメフト)部の監督だった水野弥一氏の考えに惹かれアメフト部に入部。小柄な体格とサッカーで鍛えた脚力や瞬発力を武器に、RB(ランニングバック)として活躍。2014年『第1回アメリカンフットボール大学世界選手権大会』のカレッジ日本代表に選出され、中国戦、スウェーデン戦ではMVPを獲得した。大学卒業後はIBM BIGBLUEに所属し、続く2015年の第5回 アメリカンフットボール世界選手権でも日本代表に選出され、準優勝に貢献した。2020年に現役を引退し、現在はコーチとして日本のアメフト界の発展を目指し活動中。高木 稜選手の学生時代は・・・
“日本一を目指す部活”に惹かれサッカーからアメフトに転身
しかし、思わぬ問題とぶつかることとなります。京都大学のサッカー部が、僕がちょうど入学した年に関西3部リーグに落ちてしまい、さらには監督がおらず、選手主導の体制で部活を行っていたのです。中高と指導者に恵まれていた僕にとって、監督の存在は大きなポイントでもありました。「この不完全燃焼の気持ちを、本当にここでささげてよいのだろうか」。そんなもやもやとした気持ちでいたときに、ふと目についたのがサッカー部と同じグラウンド内で活動していたアメフト部でした。
とにかく勧誘の押しの強さに負けて(笑)、少しだけ部活に参加させてもらったところ、すごく面白かった。それに加えて、初めて出会った“日本一を目指す部活”への憧れや、先輩のかっこいい姿にもとても惹かれました。とはいえ、やはりサッカーが好きだという気持ちや、4年間打ち込む部活が未経験の競技であるアメフトで本当によいのかと、非常に悩みましたね。そんな僕の背中を押したのが、当時のアメフト部の監督だった水野弥一さんの存在です。水野監督といえば、アメフト界では知らない人はいない、と言っても過言ではないほど数々の伝説的な功績を残されている方。彼の「限られた大学生活で、日本一を目指して仲間とともに何かに打ち込むことの価値は、お金にも変えられるものではない」という考えに感化され、約1ヵ月半悩んだ末に、アメフト部への入部を決意しました。
繰り返す「ファンブル」に苦悩する日々・・・
トップ選手を「真似る」練習法で挫折を克服し、活躍の場は世界へ
練習を見に来ていた古谷さんに、例えばジグザグのステップを踏む、などのRBの練習を見せてもらったとき、僕は思わず目を疑いました。テレビ越しで見ていたアメリカの選手にかなり近い動きを、土の上で、しかもトレーニングシューズで日本人が繰り広げている。今まで経験してきたアメフトの世界とは全く異次元の動きで、まるで漫画の主人公みたいだ、とさえ思いました(笑)。ここにスランプ克服のチャンスを見出した僕は、古谷さんのビデオを何度も見直しながら、自分のプレースタイルや癖を分析し、彼のプレーを真似ようと必死に練習を重ねました。その成果を実感したのが、3年生の秋の大会の関西大学との試合です。
この試合は、水野監督の引退試合でもあり、4年生の最後の試合でもある。さらにはチームの司令塔だったQB(クオーターバック)の先輩が足の骨折で出られず、その無念を背負っての試合でもありました。僕にとっても練習の集大成。とにかくたくさんの想いが詰まった試合だったんです。多くの人が関西大学の白星を確信していた中で、結果は見事勝利。僕自身、挫折を乗り越えたことを感じた一戦になりました。
もうひとつ、印象に残っている経験が2015年の世界選手権のアメリカとの決勝戦。タックルを受けたときに自分が吹っ飛ぶような感覚、守備範囲の広さなど日本では味わったことのないものばかりで、次元の違いを痛感しました。そんな中でも、黒人のディフェンスと対峙した際、自分なりのフェイクを入れてかわしにかかったとき、相手を抜くことができた瞬間は今でも忘れることができません。まさか自分が抜けるとは思ってもいなかったので、すごく戸惑いながらも、自分の磨いてきた技が通用したのだと、とても嬉しかったことを覚えています。
高木 稜選手からのワンポイントアドバイス
自分のプレーを知ることがうまくなるための第一歩
(1)真似をする…僕も実感しているからこそ伝えられることですが、圧倒的にうまくなるコツは、トップ選手の真似をすることです。今はYouTubeなどで動画を簡単に見ることができる時代ですから、ぜひ、日本、そして世界のトップ選手のプレースタイルを真似ることから始めてみてください。人種が違うから……と諦めないで。本気で取り組めば、絶対に近づくことができます。
(2)再現性を高める…ただ真似をするだけではなく、「ちゃんと真似ができているか」を確認しましょう。逐一、自分の姿をビデオに撮り、プレースタイルを確認することでその再現性を高めることができます。また、「ビデオを撮って確認する」ということはとても重要で、例えば、自分のイメージ通りのプレーができているか、自分が状況によってどのようなパフォーマンスをしているかを知ることもできます。密な確認が、自分の理想のプレースタイルに近づく鍵です。
(3)限界を作らない…「自分はここまでしかできない」と思っていても、必ずそれ以上のパフォーマンスはできるようになります。精神的なハードルは足枷にしかなりません。僕はアメフト時代、原付バイクに紐をつけて引っ張ってもらうトレーニングをしていましたが、これで、「この早さでも自分の足って追いつくんだ、思っていたより走れるんだな」と感じていました。限界を超えるための方法にチャレンジするということが、新しい自分の可能性を切り拓く大きなきっかけとなるはずです。
(4)繰り返す…アメフトは、考えながらプレーすることはほとんどできません。実際に対峙したときは、考えている時間もないんですよね。だからこそ、どれだけとっさに反応できるかが試合での活躍に大きく左右します。試合と同じシチュエーションを想定しながら、動きを体に染み込ませていくこと。水野監督も、よく練習を「1万回やれ」と言っていました。実際には1万回もできませんが、繰り返すことで体に覚えさせることが重要なのです。
※プロフィール等は2020年9月時点のものです。
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