
PROFILE
家族の影響で小学1年生からバドミントンを始める。中学3年生の時に、全国中学校体育大会にシングルスで出場を果たし、熊本の名門・熊本中央高等学校に進学。高校選抜大会ではダブルスで優勝を飾り、インターハイでは主力メンバーとして、団体戦3位に貢献した。卒業後は末綱聡子さんとペアを組み、「スエマエペア」として、国内外で活躍。2008年北京オリンピック、2012年ロンドンオリンピックと2大会連続で出場を果たし、北京オリンピックでは当時の日本バドミントン界初の4位入賞を果たした。ペア解散後も新たなパートナーと組み、2014年の世界選手権で銅メダルを獲得するなど活躍。2017年2月に現役を引退し、現在はこれまでの経験を活かし、講演や大会の解説・インタビュアーなどを行っている。前田美順さんの学生時代は・・・
バドミントン部がなかった中学時代も糧に、着実にステップアップ

高校は地元を離れて熊本中央高等学校に進学しました。中学生の時にレベルの高い熊本県の選手たちと一緒に練習させてもらう機会があり、その子たちの多くが熊本中央高等学校に進学すると知って、私も行ってみたいと思ったことがきっかけです。最終的に決め手となったのが、中学3年生の時に鹿児島県の総合選手権大会で優勝したことでした。高校生、大学生、社会人の選手もいる中で優勝できたことで自信がつき、地元を出てもっと強い選手がいる場所でバドミントンをやってみようと決心することができました。
高校3年間の中でも特に思い出深いのは、最後のインターハイで団体3位になったことです。団体戦のメンバーから外れた3年生もいたのですが、その3年生たちが中心となってチームをしっかりサポートしてくれたおかげで、私も含めて団体戦のメンバーは集中して試合に臨むことができました。「選手がストレスなく試合に臨めること」は当たり前のことではなく、周囲のサポートあってこそ。自分も大人になってサポート側を経験してより一層実感しましたし、団体3位というあの時の結果は、チームメート全員で勝ち取ったものだと、今でも強く記憶に残っています。
時にぶつかり合いながら歩んだオリンピックへの道
監督や先輩のサポート、ライバルの存在が2人を強くした

そして実業団に入り、5年前からチームに所属していた末綱先輩とペアを組みました。今でも印象的なのは、ペアを組んで間もない頃に出場した大会で優勝し、日本一になったことです。非公式の大会ではありましたが、自分でも驚きましたね。後々聞いた話では、末綱先輩が「高卒で入ってきた勢いのある前田をどう使おうか」といろいろと考えてくれていたそうです。結果、私の強みであるスマッシュを活かして戦ったのですが、それがハマりました。私は気持ちと根性でプレーするタイプで末綱先輩とは真逆のスタイルですが、組んで間もない私をうまく使ってくださり、今でもさすがだなと思います。
いきなり結果を出せたものの、そこからオリンピックまでの道のりは平坦ではありませんでした。勝てない時期や、末綱先輩との関係性に悩む時期もありました。私も末綱先輩も口下手なところがあって言いたいことをうまく伝えられず、態度や雰囲気が悪くなることが度々あったんです。傍から見たらケンカしているように見えたかもしれません。でも、お互いオリンピックという目標に向かってとにかく本気だったんですよね。私自身も、先輩とじゃないとオリンピックに行けないと思っていましたし、とにかく勝ちたい、強くなりたい、という一心で日々プレーをしていました。とはいえ、2人でどうにもならない時にはチームの先輩や監督が仲裁に入って、一緒に話をしてもらうこともありました。周囲のサポートのおかげでなんとか乗り越えられたと思っています。そして、私たちが強くなることができたのは、ずっと一緒に高め合ってきたオグシオペア(小椋久美子さん・潮田玲子さん)をはじめとする、ライバルの存在も大きかったと感じています。最終的には、目標としていたオリンピックに2大会出場することができて、2008年の北京オリンピックでは4位という結果を残すことができました。
しかし現役時代を振り返ると、“勝てなかった試合”のことも忘れられません。末綱・前田は団体戦になると勝てないと言われることがあって、実際に私たちが勝っていればチームが優勝できていた試合が何度もありました。私自身、緊張やプレッシャーもありましたし、チームの中で年上になっていくと「弱いところを見せるのは恥ずかしい」「いつでも強くいなきゃいけない」とつい強がってしまって……。戻れるなら「私、緊張しているから皆でベンチ盛り上げてね」と言いたいです。対戦相手には強い自分を見せないといけないけれど、チームメートには弱い部分も見せていいと、今なら思えますね。たくさん悔しい思いをしたからこそ気づけることもあると思っています。
前田美順さんからのワンポイントアドバイス
意識を変えることで、練習の質やモチベーションがアップ

1.鍛えた後の自分を想像してトレーニングをする…トレーニングをする時は、どんな自分になりたいかを具体的にイメージしながら取り組むことが大切です。例えば私は、ウエイトトレーニングとしてスクワットをする時に、今よりもっと速くて強いスマッシュを打っている自分を頭の中でイメージしながら1回1回取り組んでいました。また持久力を高める長距離走のトレーニングも、オリンピックで戦う自分の姿をイメージしながら走っていました。内容や回数は人それぞれですが、漠然とやり続けるだけでは辛いトレーニングも、鍛えた後の自分を想像することでモチベーション高く取り組めるはずです。
2.苦手なことではなく得意なことにも目を向ける…高校生にバドミントンの指導をしていた時、「試合どうだった?」と聞くと、できなかったことや反省点をまず挙げる子が多くいました。もちろんそれも大事なのですが、できなかったことばかりに目を向けて、逆にできていること、得意なことを見逃してしまうのはとてももったいないことだと思います。私はスマッシュが得意だったので、日々の練習もスマッシュをはじめ、自分が得意としていることの割合が多めでした。苦手なことをマイナスから0にする練習もしつつ、得意なことを10から20にするような練習をして、自分だけの強みを伸ばすこともぜひ意識してほしいです。
バドミントンのダブルスは、パートナーとのコミュニケーションも大切です。私が特に大切だと考えているのは、自分の状況や考えを相手に伝えることです。と言っても、私も現役時代の最後までなかなかできなかったのですが……。例えば試合前に緊張してしまったら「緊張していていつも通りプレーできないかもしれない」と正直に話してみる。そうすると自分自身がすっきりした気持ちでプレーできますし、パートナーにも、「フォローしよう」「一緒に頑張ろう」と思ってもらえるはずです。お互いの考えや想いを隠したままでは、2人の関係性やプレーはどんどんズレていってしまいます。ダブルスの試合は相手に声を掛けている暇もないくらい速いスピードで試合が展開していきます。その中で「阿吽の呼吸」のプレーができた瞬間は、めちゃくちゃ気持ちがいいんです。2人が時間をかけて作り上げていくコンビネーションが、ダブルスならではの魅力でもあると思います。
※掲載内容は2024年12月の取材時のものです。
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