
PROFILE
1998年9月17日生まれ。千葉県成田市出身。兄姉の影響で4歳の時に極真空手を習い、小学4年生の時に幼馴染である那須川天心選手の影響でキックボクシングをはじめる。中学2年生からボクシングをはじめ、花咲徳栄高等学校時代は全日本女子選手権ジュニアの部、全国高校選抜で優勝。2018年の世界選手権では銅メダルを獲得した。2021年に行われた東京オリンピックでは、女子フライ級で銅メダルに輝いた。並木月海選手の学生時代は・・・
フィットネス感覚だったボクシング。気づけば国内外で負けなしに

ボクシングをはじめたのは中学2年生の時です。友達と遊ぶのは楽しかったですが、どこか物足りなさを感じている自分もいて、刺激を求めて近所のボクシングジムに通いはじめました。当初は趣味程度のつもりでしたが、極真空手やキックボクシングの経験からすぐにコツを掴めてしまい、選手コースに通うことに。中学3年生からは試合にも出るようになり、本格的にボクシングにのめりこんでいきました。
中学卒業後は、埼玉県にある花咲徳栄高等学校に進みました。中学時代に何度か練習会に参加させてもらう機会があり、花咲徳栄高等学校では日本代表の選手たちと練習できることを知っていたんです。やるからには高いレベルでボクシングがしたいと思い、進学を決めました。高校時代は「勝ちたい」という気持ちもありましたが、何より「楽しむ」が一番でしたね。いくらミットやサンドバッグを前に「相手がこういう動きをしたら、こう攻めよう」と練習しても、実践の場で再現するのはそう簡単ではありません。実践練習や試合で思い通りに動けた時が楽しかったです。
楽しむことを第一に取り組んでいたボクシングですが、どんどん成長し、気づけば国内外の試合では負けなしの状態に。徐々にプレッシャーを感じはじめ、決勝戦の前には「ここで勝てなかったらどうしよう……」と考えるようになっていました。トイレにこもり「昨日私に負けた子はこの緊張を味わえていないんだ、私はすごいんだ」と呪文のように唱えていましたね(笑)。一方で、私の気持ちとは裏腹に、周りの期待がどんどん膨らんでいくのも感じていました。取材を受けることが増え、ちょうど開催が決まっていた東京オリンピックへの出場についても度々聞かれていたんです。一応「目標は東京オリンピック」と答えてはいましたが、正直、目の前の試合に向き合うので精いっぱい。東京オリンピックは夢のまた夢と思っていて、小さい子が言う「ケーキ屋さんになりたい」と同じような感覚でした。
無我夢中で目指した東京オリンピック
メダルを獲得して気づいたのは“楽しむ”ことの大切さだった

そして大学3年生の冬、オリンピックの切符をつかむことができました。夢に見たオリンピックは、独特な緊張感が漂っていましたね。もともと緊張しやすいのに、いつも以上に身体ががちがちでした。結果は銅メダルに終わってしまい、正直とても悔しかったです。ただ、終わった後にいろいろな人が連絡をくれて、両親からは「胸を張って表彰式に行きなさい」と声を掛けてもらったんです。そのおかげで数日後に行われた表彰式までに気持ちを切り替えられ、うれしい気持ちでメダルをかけてもらえました。
オリンピックという大きな壁を乗り越えてもなお、私にとってのいばらの道は続きました。3年後のパリオリンピックを目指すなら、またあのがむしゃらに練習する日々を過ごし、国内外の試合に出て切符を掴まなくてはなりません。大変さを身をもって知ってしまったからこそ、なかなか覚悟が決まりませんでした。それでも周囲の期待に応えるために試合に出る日々。純粋にボクシングを楽しむことができず、義務感で続けているような感覚になりました。やがて心身ともに疲れてしまい、2023年に競技自体を休むことに決めました。
千葉県の実家で心と身体を休める中、ボクシングへのポジティブな気持ちを取り戻すきっかけとなったのは、何気なくテレビで見ていたパリオリンピックでした。何度も試合をしている選手がオリンピックの舞台で活躍していて、最後まであきらめなかった人が夢を掴めるんだと感じたんです。その時、純粋に「もう一度やりたい」と思うことができました。
さらに復帰する直前、まだ少し不安の残る私の背中を押してくれたのは、高校時代の担任の先生のお父さんでした。休み中に先生とお会いする機会があり、帰りに先生のお父さんが車で送ってくださったんです。私の復帰の話題になった時、お父さんが掛けてくださったのが「俺らからしたらまだまだ原石だから」という言葉でした。オリンピックでメダルを獲ってから、どこか自分の中で輝き終わった感覚があったのですが、その一言でまだまだ磨けば輝ける気がしたんです。すっと気持ちが軽くなり、また一から頑張ろうと決意できました。
復帰後は楽しむことを第一にボクシングに向き合っています。自衛隊体育学校から一般のボクシングジムに練習環境を移したのですが、一般会員さんが近くで応援してくれたり、時には会員さんが私と同じ練習メニューにチャレンジしたり(笑)。今まで味わうことのなかった人の温かみを感じながら、楽しく練習できています。これからもボクシングをはじめたころの純粋な気持ちを大切に、アジア大会でのメダル獲得、そしてロスオリンピックで東京大会よりもよい色のメダルを獲ることを目指して頑張ります。
並木月海選手からのワンポイントアドバイス
アップの段階でも、実践を意識してできることはある

(1)全力シャドーボクシング…シャドーボクシングは、アップの一環として主に身体を温める目的で行うため、つい力を抜いてしまう人が多いと思います。それもよいのですが、私は2分間全力でシャドーボクシングをすることをおすすめしたいです。相手がいないからこそ、自分が理想とする動きを実践できる絶好のチャンス。シャドーボクシングでできない動きは、実践では絶対にできません。試合と同じ出力と速さで、相手が自分の目の前にいると思ってやってみてください。
(2)ラダー…ステップ(パンチを打つために近づく、相手のパンチを避けるために離れる、有利な角度にずれる、といったボクシングの足の動き)を鍛えるトレーニングとしては、ラダーが有効です。例えば、ラダーの長辺側を前にして立ち、1マス目に右足を入れて戻す、2マス目に左足を入れて戻す、といった形で交互に足を入れて横に移動していきます。上半身は正面を向いたまま、下半身は内側にねじって踏み出すのがポイントです。慣れてきたら足を踏み出した瞬間に、出している足と同じ側の手でパンチを打ってみてください。足と手を出すタイミングがずれてしまう人が多いのですが、同時に出せるようになると実践で瞬間的にパンチが出せるようになると思います。
(3)サンドバッグダッシュ…試合と同じ2分間、サンドバッグを打って持久力を高めるトレーニングです。ダッシュ(無酸素状態で打ち続ける)と、休憩(足を動かし軽くパンチもしながら、息を整える)を10秒ごとに繰り返します。回数は大体、1日に3セット。強さ重視のパンチやスピード重視のパンチ、接近戦を意識した短距離でのパンチなど、セットごとにダッシュの時に意識することを変えてみてください。また、試合ではいつ相手が攻めてくるかわかりません。瞬時に対応できる力を鍛えるために、休憩からダッシュに切り替わる合図が鳴った瞬間、打ちはじめることも大切です。
試合中、唯一選手に声を掛けられるのがセコンドを務めるコーチです。なので二人が同じ戦い方を想像しておく必要があります。そのために私が大事にしているのが、どんな小さなことも話し合うこと。例えば、試合中にコーチが放つ「ワンツー」という一言も、「ワン、ツー」と「ワンッツー」という2つの言い方にどんな違いがあるのかを細かく話し合い、言われた瞬間に意図した打ち方ができるようにしています。お互い違う人間なので意見がすれ違うこともありますが、すり合わせを続けることで、信頼関係も築かれていくと思います。
※掲載内容は2026年1月の取材時のものです。
※撮影協力:ボクシング特化型フィットネスジム「VALZA/ヴァルザ」





















