
PROFILE
1994年11月21日生まれ。石川県津幡町出身。元レスリング選手の両親のもと、3人姉妹の長女として生まれる。小学校2年生の時に金沢ジュニアレスリングクラブに入部し、本格的にレスリングを始める。小学6年生の時に全国少年少女選手権大会で準優勝すると、徐々に頭角を現し、中学3年生の時に全国中学生選手権41kg級で優勝。至学館高校に進学後、高校3年生の時に全日本選抜選手権初優勝を果たした。さらに至学館大学在学中に、オリンピック出場を目指し階級を63kg級に変更。世界選手権でオリンピックへの切符を掴むと、2016年リオデジャネイロオリンピックで金メダルを獲得した。4年後の東京オリンピックでは、階級を57kg級に戻し2連覇を達成。62㎏級で優勝した妹・友香子とともに、目標としていた「姉妹で金メダル獲得」を実現した。2022年に第1子出産後、5カ月後に試合復帰。2024年の世界選手権で優勝し、母として初めて世界の頂点に立った。2025年に現役引退を発表。引退後は妹・友香子のコーチを務める一方、高校レスリングの指導にも携わるなど、レスリングの普及に向けた活動を続けている。金城梨紗子さんの学生時代は・・・
年齢も強さも関係ない、とにかく食らいついて勝利を目指す

その後、地元にレスリングクラブがあると知った父に誘われて、クラブに入部。もともと体を動かすことが好きだったので、基礎練習として取り入れられているマット運動や体操に楽しさを感じ、そこからは自然とレスリングにのめり込んでいきました。「できないことをできるようになりたい」という思いが、当時の原動力になっていたと思います。やがて母もクラブのコーチとして指導に加わり、妹たちもレスリングを始め、家族全員が競技に関わる“レスリング一家”となっていきました。
レスリングを始めてから4年間は思うように勝てず、歯がゆい日々が続きました。転機となったのは、小学6年生の時。「小学校最後の大会では絶対に勝ちたい!」と一念発起して、これまで週2回だった練習を週4回に増やしました。その結果、全国大会では準優勝に。しかし、優勝に届かなかったことはとても悔しかったです。その悔しさを胸に、中学生になってからも引き続き週4回の練習を続け、練習がない日にも1人走り込みをするなど、ひたすら努力を重ねました。そして中学3年生の時に、初めて全国大会で優勝することができました。
高校からは親元を離れ、愛知県名古屋市にあるレスリングの名門・至学館高校に進学。当時至学館大学を練習拠点としていた吉田沙保里さんをはじめ、全国から集まったトップレベルの選手たちに囲まれながら、レスリングに打ち込む生活が始まりました。
高校生活で特に印象に残っているのが、高校1年生の時に初めて出場したシニア大会です。同年代の選手だけでなく、年齢も実績もさまざまな選手が集う大会で、強豪選手を相手に初戦で敗退しました。試合後にコーチから「高校1年生で、強豪相手に1点でも取れたのはでかいぞ!」と声をかけられ、最初は舞い上がっていました。
しかしその後、チームの総監督からは厳しい言葉が。「年上であろうと、強い相手であろうと、点を取っただけで満足していたら先がない」と言われ、自分の意識の甘さに気づかされました。年下だから負けても仕方がないという気持ちで試合に臨んでいたら、当然勝利にはつながりません。年齢や強さに関係なく、常に勝ちにいく姿勢が求められる世界であることを痛感し、選手としての意識は大きく変わっていきました。そこからは試合で結果を残せるようになり、ジュニアクイーンズカップや全国高校女子選手権などで優勝。高校3年生の時には全日本選抜選手権で優勝を果たしました。
金メダル獲得でついた自信を胸に、元の階級でリベンジ
憧れの選手との対決を制し、東京オリンピック2連覇も実現した

オリンピックの初戦では、マットに上がった瞬間、「本当にオリンピックの舞台に立っているんだ」と実感し、ワクワクしたことを覚えています。本番ではコンディションにも恵まれ、結果は優勝。階級を変更することに葛藤もありましたが、今となっては良い選択だったと思います。そして次の目標となったのが、元の階級に戻して伊調さんに勝利し、東京オリンピックに出場すること。そして妹の友香子とともに、姉妹で金メダルを獲得すること。その目標に向けて、金メダルの余韻に浸る間もなく動き始めました。
東京オリンピックの予選では伊調さんと何度も対戦し、勝ち負けを繰り返していました。伊調さんを越えるという大きな壁に直面し、選手人生で最も苦悩した時期だったと思います。2019年、世界選手権で伊調さんに勝利し、東京オリンピック出場を決めた時は、悲願を達成した喜びと同時に、努力が報われたような思いがありました。
東京オリンピックはコロナ禍での開催となりました。無観客の会場は独特な雰囲気がありましたね。私は2連覇へのプレッシャーもあり、試合中はあまり調子が出ませんでした。そんな時、静まり返った会場に響いたのが、同じくオリンピックに出場していた妹の友香子の声でした。「一人じゃないんだ」と感じて、とても心強かったのを覚えています。そして迎えた決勝戦。前日に友香子が金メダルを獲得した姿を見て、“姉妹で金メダル”という夢が目前に迫っているのを実感し、「やるしかない」と奮い立ちました。優勝を果たし、2連覇を達成した瞬間は、喜び以上に「やっと終わった」という解放感でいっぱいでした。大会中は外出制限もあったので、ようやく会いたい人に会えると、ホッとしたのを覚えています。2連覇の金、そして友香子と2人で取った金。メダルの重みが何倍にも感じられました。
東京オリンピック後には、結婚し第1子を出産しました。出産後は体力も筋力も落ち、基礎練習もままならないところからのスタートでした。それでも再び世界一になることを目標に競技を続け、2024年の世界選手権で優勝を果たしました。その瞬間「やりきったな」と思いましたね。そして2025年に現役引退を決めました。オリンピックで2連覇し、母親としても世界の頂点に立ったことで、思い残すことなく、満足して選手人生を終えることができたと思います。
金城梨紗子さんからのワンポイントアドバイス
限界のプラス1回を目指して、とにかく量をこなすことが大事

(1)体力トレーニング……年齢を重ねるとどうしても体力が落ちていくので、若いうちから体力を鍛えておきましょう。特におすすめなのが、人を背負いながらの走り込みです。レスリングは身体一つでぶつかり合う競技。人間の重心の変化を感じ取り、コントロールする力が求められます。だからこそ、ただの重りではなく人を背負い、重心の変化を体感しながら鍛えることに意味があります。50mほどの坂道を、人を背負ったり、肩車したり、抱っこをしたりしながら走ってみましょう。1人を背負いながら、もう1人を抱っこしてもいいと思います。いろいろな形で負荷をかけながら走ってみてください。
(2)筋力トレーニング……体力と同様に重要となるのが、筋力です。私が高校生の時は、10mくらいのロープを10本分、手だけを使って昇り降りするトレーニングをしていました。筋力は、継続してトレーニングを積み重ねていけば着実についていくもの。特別なことをするというよりも、今取り組んでいるトレーニングを地道に続けていくことが大切です。
(3)SNS断ち……選手人生でいろいろな経験をしたこともあり、メンタルは強い方でしたが、そんな私でも気持ちが揺らいでしまうことがあります。そんな時に効果的だったのが、SNSから距離を置くことでした。私自身、エゴサーチをしていた時期がありましたが、ネガティブな情報に触れると、どうしても気持ちが落ちてしまうのです。そこで強制的にSNSを断ってみたところ、余計な言葉に振り回されることなく、周りの言葉だけに集中できるようになりました。今の時代だからこそ、大事なメンタルケアだと思います。
高校生の時期に特に大事なのは、とにかくトレーニングの量を積むことです。強い選手は例外なく練習量が多く、日々の積み重ねを徹底しています。きついと思ったところからプラス1回でもできるようになることを目指して、日々の練習に取り組んでください。
※掲載内容は2026年3月の取材時のものです。
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