PROFILE
1994年8月15日生まれ。栃木県小山市出身。生後6カ月から水泳を始め、小学2年生から数々の全国大会に出場し、記録を更新した。種目は個人メドレー。高校生で初出場したロンドンオリンピックでは、男子400m個人メドレーで銅メダルを獲得。2013年に東洋大学に進学。大学4年生の時にリオデジャネイロオリンピックに出場し、男子400m個人メドレーで金メダルに輝いた。同大会では、200m個人メドレーで銀メダル、4×200mフリーリレーで銅メダルも獲得。2021年の東京オリンピック出場後に現役を引退し、日本体育大学の大学院に進学した。現在は博士課程に在籍し、「人はなぜ泳ぐのか」をテーマに研究を続けている。萩野公介さんの学生時代は・・・
練習の成果を発揮して楽しんだ、はじめてのオリンピック

中学は、受験をして作新学院中等部に進学しました。中学生の頃は、小学2年生から出場し続けているジュニアオリンピックカップや、全国中学校水泳競技大会にも出場しました。ジュニアの日本代表にはじめて入ったのも中学1年生の時で、シドニーに海外遠征をしたことが印象に残っています。
高校は、そのまま作新学院高等学校に進みました。高校3年生ではじめてオリンピックに出場した時は、まるで別世界にいるような、夢のような感覚でした。前年の世界選手権では、代表選考会のタイミングで体調を崩し試合に出場することができず、それまで頑張ってきた練習が無駄になったような気持ちになりました。そのためロンドンオリンピックでは、4年に一度のオリンピックの代表に選んでもらったのだから、練習の成果をしっかり発揮して楽しもうという気持ちが強くありました。
リラックスして臨めたのは、スイミングスクールの前田コーチの存在も大きかったと思います。小学生の頃からお世話になっている前田コーチには、練習メニューに文句を言ったこともありましたし、生意気なところもたくさんありました。前田コーチとのやりとりを見た周囲からは「漫才を見ているみたい」と言われたこともあります(笑)。それでも全て受け入れて指導してくださった前田コーチには感謝しかありません。コーチにとっても私がはじめてのオリンピック選手で、不安な気持ちもあったはずですが、私もコーチもやってきたことに間違いはないと信じていました。だからこそ、お互いにいつも通りやれば大丈夫という気持ちを持っていたと思います。
また、ロンドンオリンピックの水泳競技の日本代表選手たちは、チームとして戦うことを念頭においている雰囲気の良いチームでした。その中で私は最年少で、先輩たちからアドバイスをもらって練習をしたり、楽しかった記憶があります。水泳競技はロンドンオリンピックの初日に実施される競技で、かつ水泳の中でも私は最初のレースでした。そのため、先輩から「1発目のレースで良い泳ぎをしたら良い流れができるから、頼んだよ!」と言われていました。先陣を切る思いで挑み、結果は銅メダル。はじめてのオリンピックで雰囲気も何もわからないままレースに臨んだのが、かえって良かったのかもしれません(笑)。
怪我を乗り越え、取りにいった「金メダル」
泳ぐことは生きること。「人はなぜ泳ぐのか」を研究する

金メダルを獲得したリオオリンピックに出場したのは大学4年生の時です。オリンピックの前年、肘を骨折し世界選手権を欠場した時には、平井先生やトレーナーにたくさん支えてもらいました。あらためて周りの方への恩返しの気持ちを強く持ちましたし、練習もより一生懸命頑張って臨んだオリンピックだったと思います。ロンドンの時は正直、運が重なって取れた銅メダルだと思っていたので、金メダルを取りに行くつもりで挑んだリオオリンピックは、緊張感も段違いでした。ただ、緊張して自分の泳ぎが揺るぎそうになった時も、支えてくれた平井先生に金メダルをかけてあげたいという気持ちで頑張れたような気がします。
2021年の東京オリンピック出場後に現役を引退し、現在は日本体育大学の大学院で研究を行っています。元々自分の意思とは関係なく幼少期に水泳を始め、もちろん好きで続けていましたが、引退の少し前からあらためて「なぜ自分は泳ぐのか」を考えるようになりました。小さい頃から泳ぎ続けている私にとって、泳ぐことはほぼ生きることだったので、なぜ泳ぐのかというテーマはなぜ生きるのかというテーマに等しく、引退後はそのテーマを追究するため大学院に進学しました。私の専門である「スポーツ人類学」は、スポーツを通して人間とは何かを見ていく学問で、哲学や社会学、文化人類学など様々な学問のフィールドが重なり合っています。その中で私は、「人はなぜ泳ぐのか」をテーマに、オリンピックメダリストに話を聞きながら研究を行っており、ゆくゆくは調査対象者を広げていきたいと考えています。
大学院修了後は母校の東洋大学に戻り、学生のために貢献したいです。そして大学というフィールド以外でも、誰かのために自分の人生を活かす機会について、今後も考えながらチャレンジしていきたいです。
萩野公介さんからのワンポイントアドバイス
調子が悪い時も、自分を「動かし続ける」ことで前に進める

(1)陸上トレーニング…毎日、10分~15分で良いので陸上トレーニングをするのがおすすめです。例えば、朝起きて学校へ行く前に走ったり、帰ってからウォーキングをするだけでも良いと思います。水中は浮力があるので、筋肉も無重力下での刺激となり、抗重力筋という重力に抗う筋肉が少なくなってきます。そのため、陸上トレーニングで下半身の筋力や心肺機能の強化を行うと、水泳だけでは得られない効果が得られます。また、泳ぐ時に自分が使いたい筋肉を意識して陸上でウォーミングアップをすることも、水中での動きが良くなるのでおすすめです。
(2)耐乳酸トレーニング…水泳選手にとっては定番ですが、1週間に1回、耐乳酸トレーニングをやってほしいです。100メートル1本を休憩込みで2分30秒で泳ぎ、20本連続で続けるというもので、クロールで泳ぐことが多いですが、私のように種目がメドレーの場合は4種目を5本ずつ泳ぐのも良いと思います。ハードですが持久力アップのために必須のトレーニングなので、定期的に取り組んでみてください。
(3)水をキャッチしやすくなるグースイム…技術向上を目的とした練習の一つとしておすすめなのが「グースイム」です。手のひらをグーにして泳ぐことで水がつかみにくく、泳ぎづらくなるので、効率的に泳げるよう自然と正しいフォームが身に付きます。グースイムで練習を続けていると、いつも通り手のひらをパーにして泳いだ時により水をキャッチしやすくなり、疲労が溜まっていても綺麗なフォームで泳げるようになります。泳ぐ距離としてはクロールで50mを4本から8本で十分で、トレーニング負荷も重くないので、ぜひ毎日やってみてください。
競泳競技をしていれば誰しもタイムが伸び悩んだり、怪我をしてしまったりすることがあります。後退しているんじゃないか、成長できていないんじゃないかと思うかもしれませんが、そんな時こそいろんな経験を積めるチャンスです。よく平井先生が「良い時こそ慎重に、悪い時こそ大胆に」とおっしゃっていました。調子が良い時は何もしなくても大体のことが上手くいくので落ち着いて今やっていることをやり続ければ大丈夫。一方で、調子が悪い時はなんとか状況を変えないといけないので、アグレッシブに自分を動かし続ける、行動し続けることが大切です。今できる最大限のことをコツコツやることが前に進む唯一の道で、何もできていないように見えても、しっかり前に進めていると思います。
※掲載内容は2025年9月の取材時のものです。
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