PROFILE
1961年5月21日、静岡県生まれ。中学時代から陸上を始め、高校時代から200、400mに。'80年、東海大学1年の関東インカレ400mで3位入賞、'82年、ニューデリーアジア大会400mで金メダル。'84年ロサンゼルスオリンピック400mベスト16。'91年、日本選手権で44秒78の現在の400m日本記録樹立。'92年バルセロナオリンピックでは日本のスプリント選手として64年ぶりのファイナリスト(決勝進出)となり8位入賞を果たす。現在は、東海大学体育学部助教授とともに、東海大学陸上部短距離コーチを務め、現200m日本記録、アジア記録保持者末續慎吾を育てるなど活躍中。また主幹の実業団チーム「RaSport」の指導・活動を通して、走ることの可能性をさまざまに追及中。
高野 進さんの学生時代・・・
高校時代はリレーが中心。それで400mを走ることに
中学生の時、友達の誘いで陸上部に入ったのが、陸上競技を始めたきっかけです。小学生の時、足がかなり速いという自覚があって走るのは好きでした。ただ、中学生の時は幽霊部員、さぼりの常習でした(笑)。先生が辛抱強く声をかけてくれたのですが、ほとんど練習はやってませんでした。昔からいったん好奇心を覚えるとモチベーションがアップして、集中力も倍増するタイプだったんですが、好奇心を持てない物事にはまったく力が入らないところがあって。中学生時代は、陸上競技が面白いと思わなかった。中学3年の地区大会には三段跳びに出場したんですが、当然あっけなく予選落ちして、「これで陸上は引退だな」と思ったりもして。でも、中学の先生が推薦してくれて、高校に進学して再び陸上部に入ったんです。最初は棒高飛びをやれといわれてやったのですが、怪我をしたこともあって短距離に移りました。そして200mをやって、さらにその高校が400m×4の1600mリレーが強くて、それに勝ちたいから400mに転向しろといわれて転向してみたら、けっこう速かったんです。400mは辛いので、始めはいやいやのつもりが、勝つのが面白くて走り続けてました。高校時代はリレー中心で、仲間と一緒にやれたというのもよかったですね。みんなで「インターハイ優勝しよう!」と、いわゆる青春時代を精一杯陸上に費やしていました。高校記録まで出して、でも結局インターハイは2位だったんですけど、それはそれでいい思い出ですね。
自分には選択肢はない、という気持ちでエネルギーを注いできた
私の場合、これまでの生き方を振り返ってみると、ほとんど自分で決めてないし選択肢もありません。心中にあるのは「ノンレジスタンス(Non-resistance)」ということです。「無抵抗」。ただ、消極的ではなくて、「肯定的無抵抗」あるいは「積極的無抵抗」ということ。大学には400mの力を買われ、東海大に推薦されて行ったし、インカレに出てみたら始めから3番に入って翌年は優勝できた。そうすると気持ちがいいからもっと練習しよう!今度は日本記録が近くなってきたんで目指してみよう!と思いました。ですから、流れを読み、流れに乗って、先頭に立って後ろから押されながら自分で決めていくという感じです。一人で生きていけると思うのは大きな間違いで、自力と他力と両方ないと絶対に無理だと僕は思います。それは、指導者とか仲間とかの力を借りながら、最終的には自分でちゃんと意識して進むということです。400mという選択も、冷静に考えればほかにもっと派手で華やかな種目をやってもよかったのかもしれないけど、僕の中ではもう400mをやらなきゃいけないんだという、自分には選択肢はないという気持ちがあったんです。それなら、決めた道に対してすべてのエネルギーを注ぐしかない。何かを究めるには、今目の前にある選択肢が一個しかないと思った方がいいんですよ。目の前に引かれている道を、見る目があるかどうかなんです。
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高野 進さんからのワンポイントアドバイス
毎日毎日、感動を見つけるメンタリティが大切
(1)つねに新鮮なモチベーションを
選手にとって大切なことは、モチベーションの維持と強化だと思います。レベルがいろいろあると思いますが、自分の目の前の目標をつねに再構築していくことです。一つの目標をクリアしたら、その次の目標と思っていたことが変わったりします。目標はすぐ変わるものですから、つねに新鮮な目標を目の前に置くということが大事です。仮に何か失敗したとしても、その失敗からまた次の進展のある目標を決めればいいだけなんです。ですから失敗はないんですよ。ただ目標設定が合ってなかっただけのことで。
(2)日々感動を覚えることが大切
メンタルな部分ですが、陸上だけじゃなく、勉強でも何でも同じだと思いますが、毎日毎日感動を覚えなさいということですね。感動があるからクリエイトするんです。1日の練習のなかで、何か些細な、ちっちゃな感動でもいいので、「おー、すごいよかった。今いい走りができた。超感動!」みたいなこととか。人から見たら大げさでもいいので、毎回自分でそれを見つけることが大切なんです。大学に来ても、昔取った杵柄でクールにキメてる選手もいますが、残念ながらそういう人は伸びない。何か感動とかがなければ意味がないという話です。日々感動を見つけることですね。技術的なことは個々の話で、レベルもそれぞれですから控えますが、大きくいえば、本当は何も考えないようにして走ればそんなに間違いはない。遺伝子の中に入ってますから。ただ、走ることに、本能的なものとそうじゃないものと、両方持って走るのは人間だけなんで、それは興味深いですね。これは自分自身の好奇心の部分ですが、ですからそこには何らかの進化の原点があるんじゃないかなと思ってるわけです。
高野 進さんからみんなへメッセージ
お互いに高めあうことのできる友達を大切に
友達を大事にしてください。友達は自分のことを映し出す鏡です。悪い鏡の中にいれば、歪んで自分が映るでしょうし、逆に心から素直に自分が出せるような友達がいたとしたら、友達を通して自分のいい部分がたくさん見えてくるだろうしね。お互いに高めあうこともできます。一番近くにいる人は、自分に一番興味を持ってくれている人で、そういう友達の関係は大切にすべきだと思います。それと、何ごとも一度選んだら、決心したあとに迷わないということです。大学で教えていて一番感じるのは、優柔不断な人が多いということ。
一流のアスリートに共通していることがあるとすれば、それぞれ自分なりのセンサーを働かせて判断をしていて、優柔不断な人は少ない。一流になればなるほどあまり悩まず、悩むときがあっても、優柔不断にあっちこっちと行ったりはしないものです。
※この記事は2006年6月に取材したものです。プロフィール等は取材時点のものですので、ご了承ください。
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