
PROFILE
小学2年生からバレーボールを始め、小中高全ての年代で全国制覇を経験。高校卒業後は東レアローズ女子バレーボール部に入部した。日本代表には高校在学中の2001年に初選出され、オリンピック・世界選手権・ワールドカップと三大大会すべての試合に出場。力強いスパイクを武器に「パワフルカナ」の愛称で親しまれ、日本を代表するプレーヤーとして活躍した。2010年6月に現役を引退し、2021年に双子の女の子を出産。現在は全国での講演活動やバレーボール教室、解説、メディア出演など多方面で活躍しながら、バレーボールを通してより多くの子どもたちに笑顔を届けたいと活動中。大山加奈さんの学生時代は・・・
自分らしいキャプテンのあり方を模索し、達成した高校3冠

その後、声を掛けていただいた学校の中から、成徳学園(現・下北沢成徳高等学校)に中高一貫で進学し、競技を続けました。学生時代で特に印象的だったのは、高校2年生の春、私がキャプテンになってすぐにチームメイトだった荒木絵里香さん(元日本代表選手)と大喧嘩したこと。私たちは春高バレー・インターハイ・国民スポーツ大会のすべてで優勝する「高校3冠」を目指していたのですが、最初の春高予選で負けてしまいました。結果的に春高への出場権は得られたものの、負けたことがショックで泣いていたら、荒木さんに「いつまで泣いているんだ」と怒られたんです。その言葉にカチンときて言い合いになりました。でもその時にお互いにお腹の中のものを吐き出したことで、私は荒木さんのことをずっと誤解していたことに気付きました。荒木さんは高校で本格的にバレーを始め、私とは歩んできた道や価値観がまったく違います。私は小中で全国制覇をしてきたので、荒木さんのやり方や考え方で勝てるわけがないと否定してしまっていたんですよね。でも初めてちゃんと話をしたことで、荒木さんが本気で勝ちたいと思っていること、チームを良くするためにはどうしたら良いのかを真剣に考えていることがわかりました。目指しているものが一緒なら、「山の登り方」はそれぞれでいいんだと思えた瞬間でした。また監督から「加奈は加奈の色のキャプテンでいい」と言われたことも印象に残っています。自分が思い描くキャプテン像に捉われず、任せるところは仲間に任せる、後ろからチームを支えていくようなキャプテンになろうと思えてからは、自信を持てるようになりました。チームメイトとの喧嘩や監督からの言葉をきっかけに自分自身が変わり、チームとしても皆が伸び伸びとプレーできるようになっていったことで、「高校3冠」という目標を達成することができました。
競技人生を通じて得た経験を次の世代へ
若いアスリートがより良い環境でスポーツができる未来をつくる

オリンピック出場を果たした後は、腰の怪我や怪我からくるメンタルの不調に苦しみました。手術を乗り越え一度は復帰したものの、結果的に26歳で引退を決めました。現役を引退してから徐々に、日本のスポーツ界には健全ではないところがあると感じるようになりました。例えば、自分自身の経験やバレーボール教室で子どもたちと接する中で課題に感じたのが、行き過ぎた勝利至上主義です。指導者や周囲の大人たちの勝利への強い執念によって、何よりも優先されるべき選手の心身の健康がないがしろにされているのではないか。こうした考えから、若いアスリートやこれからスポーツをする子どもたちにより良い環境でスポーツに取り組んでもらいたいと思うようになりました。現在は、プレイヤーデベロップメントマネージャー(PDM)として、Vリーグの選手や他競技のアスリートに対して、メンタルヘルスに配慮したカウンセリングや引退後のキャリア支援などさまざまな角度からサポートしています。また女子学生アスリートとともに月経の課題に向き合うプロジェクトにも携わっています。心身の健康が大切にされる環境でアスリートたちがスポーツに励み、人生を豊かにしていく。これが当たり前に実現できるスポーツ界をつくるために、今後も活動を続けていきます。
大山加奈さんからのワンポイントアドバイス
自分の長所にも目を向けながら、日々の練習に励んでほしい

(1)お尻を意識してジャンプする……高くジャンプしようと思うと、ついつい太ももに力が入ってしまいがち。ですが、高く跳ぶために必要なバネの力を発揮するにはお尻や股関節周りの筋肉が重要です。まずは普段のスパイク練習から「お尻で飛ぶ」ことを常に意識してジャンプしてみてください。それだけで少しずつ変化が感じられると思います。
(2)肩甲骨まわりのストレッチをする……肩甲骨まわりを伸ばすことで腕の可動域が広がり、スパイクの打点やブロックの高さを上げることができます。まず仰向けになり、両腕を天井に向かってまっすぐ伸ばします。その体勢のまま肩甲骨を床に押し付ける動作と、肩甲骨を床から少し離して両腕を天井に向かって伸ばす動作を繰り返します。ストレッチなので回数は自由。怪我の予防にもなるので自分のペースで続けてみてください。
日々の練習や試合の中で「良いところ探し」をすることも忘れないでください。負けた試合でも良かったところは絶対にあるはず。そこに目を向けないのはもったいないことだと思います。私自身、日本代表に選ばれてからは特にレシーブが下手だと言われ続け、苦しんだ時期がありました。レシーブを頑張らなきゃと必死になり、本来の強みである「パワー」に目を向けることができなくなってしまったんです。だから皆さんには、プレー面はもちろん、性格でもなんでも自分の良いところを認めて、それを強みにしていってもらえたらと思います。
バレーボールはルール上、一人でボールを連続して触れません。絶対に一人ではできない、究極の「繋ぐ」スポーツであるところが魅力だと思います。また、「苦手があっても大丈夫なスポーツです」と、私は言いたいです(笑)。コートには6人いるので、例えばレシーブが苦手なら得意な仲間に守備範囲を広くとってカバーしてもらう、逆にスパイクが得意なら苦手な仲間の分まで多く打ってフォローすることができます。一人ひとりの良さを活かすことがとても重要で、誰かの苦手を誰かの長所で補い合えるところが、バレーボールの本当に素敵なところだと思います。
※掲載内容は2025年2月の取材時のものです。
2/2ページ