
PROFILE
1984年8月3日生まれ、岡山県出身。小学5年生からバレーボールを始め、成徳学園高等学校(現・下北沢成徳高等学校)を経て、2003年に東レアローズに入団した。オリンピックへは、2008年の北京大会で初出場。続く2012年のロンドン大会ではキャプテンとしてチームを牽引し、銅メダル獲得に貢献した。2013年に結婚し、2014年に出産、その半年後に上尾メディックスにて現役復帰を果たした。2021年に自身の集大成として東京オリンピックに出場し、同年、選手生活に幕を閉じた。2022年、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科に入学し、2023年に修了。現在は、クインシーズ刈谷のチームコーディネーターとして活躍するほか、一般社団法人SVリーグ理事、公益財団法人日本バレーボール協会理事にも就任している。荒木絵里香さんの学生時代は・・・
目標が「全国制覇」から「オリンピック出場」に

本格的にバレーボールに取り組むようになったのは、高校時代でした。公立中学校のバレーボール部を経て、強豪校である成徳学園高等学校(現・下北沢成徳高等学校)に入学。同期の大山加奈さんをはじめ、実力と熱意を持ち合わせたメンバーとともに、練習に励むようになりました。私のポジションは、相手のスパイクをブロックする役割のミドルブロッカーです。入部当初は、「なぜ自分は上手くできないのだろう」という負の感情ばかり沸き上がることもありましたが、試合に出るたびに、チームが団結して協力し合うからこそ各々の力が発揮できることを実感。「みんなに頑張らせてもらっていたんだ」と気づき、集中して練習に取り組めるようになりました。
当時の私たちが目指していたのは、全国制覇でした。しかし、そう簡単には達成できません。そんな中で私が心がけたのは、「何が何でも試合に勝たなければ!」と焦るのではなく、「勝つことよりもまず、自分自身が強くなろう」と日々努力すること。ミドルブロッカーとして、どのようなトレーニングをすればプレーが良くなるのかを真剣に考えながら、練習に臨んでいました。
高校生活の中で最も印象に残っている試合は、2年生の時の春の高校バレーの決勝戦です。悲願の全国制覇を達成し、生まれてはじめて心がブルブルと震えるほどの高揚感を味わったのです。決して自分だけの力でここまで来られたわけではありません。これまでにチームメイトと共有してきた苦しいこと、楽しいこと、さまざまな時間や思いがあったからこそ、手に入れることができた最高の瞬間でした。この時に「これからも、バレーボール選手として精いっぱい頑張っていこう」という覚悟が決まったのを、今でもはっきりと記憶しています。
この経験により、叶えたい夢が「オリンピックに出場したい」「世界の強豪と戦いたい」と、より具体的になりました。卒業後の進路に大学進学も視野に入れていましたが、「大学にはいつでも行ける。練習やその環境を整えることは今しかできない」と考え、私は東レアローズでプレーすることを決断しました。
オリンピック4大会出場。日本中に元気を与えた
「もっと強くなりたい」という気持ちに正直に

さらに嬉しいことに、日本代表メンバーに選ばれて、合宿に参加する機会もありました。ですが、6対6の試合形式の練習にすら出してもらえない状況が続いて、突然、心が折れて逃げ出したくなってしまったことがありました。その時に私が頼ったのが、高校時代の先生でした。辛い心境を訴える私に先生は、「何のためにバレーをしているの?」と一言。「オリンピックに出たい」しか頭になかった私はハッとし、「できないことができるようになりたい」「もっと上手くなりたい」というバレーボールに対する純粋な気持ちを思い出しました。そこからまた私は前を向き、練習に打ち込むようになりました。
オリンピックには、北京大会、ロンドン大会、リオデジャネイロ大会、東京大会と4度出場しています。ロンドン大会では銅メダルを獲得することができ、春高バレー以上の感動を味わいました。最も嬉しかったのは、自分たち以上に喜んでくれる人がいたこと。チームを支えてくれたスタッフ、日本中で応援してくれた多くの方々……本当にたくさんの方々から「感動をありがとう」「たくさんの元気をもらった」といった声を何度も何度も聞きました。私が好きでやっているバレーボールで、こんなにもたくさんの人の心を震わせることができるとは思ってもなかったので、本当に胸が熱くなりましたね。
ロンドンオリンピックが終わった後、私は結婚・出産を経て、再び競技に戻りました。でも、出産を経験すると、信じられないくらい体が動かなくなるんですよ。この時は本当に焦りましたが、「元に戻ろうとするのではなく、新しい自分をつくるんだ」と気持ちを切り替えました。バレーボールを始めた小学5年生の頃と同じように、できないことを面白がろう。そして、もう一度、自分の成長をイチから体験しよう。そんな思いで、前向きな気持ちで練習に取り組みました。
東京オリンピックを最後に私は選手生活を引退し、高校卒業後に諦めた大学進学という夢にチャレンジしました。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科コーチングコースに入学し、選手時代に得た「ブロック」に関する経験や技術を言語化し、人に伝える研究に励みました。それまでバレーボール一色だった私にとって、大学院は未知の世界でした。勉強はとても大変でしたが、今までの自分の経験を振り返り、「なるほど。こういう理由で、この戦術を取っていたのか」と納得することばかり。非常に楽しく、有意義な時間を過ごしました。
現在は、クインシーズ刈谷のチームコーディネーターとして選手をサポートするとともに、SVリーグや日本バレーボール協会の理事も務めています。これまでの経験を活かして、バレーボールのみならずスポーツ界全体に良い影響を与えられればと思っています。
荒木絵里香さんからのワンポイントアドバイス
目的や目標をしっかり定めて、昨日の自分を超えていく

(1)丈夫な体づくりを意識する…一番大切なのはトレーニングそのものよりも、丈夫な体をつくること。睡眠時間をしっかり確保して、毎日の食事で栄養をバランス良く取ることを心がけましょう。その上で、トレーニングの前後のストレッチやクールダウンといったセルフケアも丁寧に行ってください。
(2)目標選手の真似をする…「この人のようなプレーをしてみたい」という選手がいたら、その人の動き方をよく観察して、すぐに真似してみましょう。私はアタックの練習の時、本当は先輩の前にいなければいけなかったのですが、「すぐ後ろで練習させてください」とお願いしていました。今はインターネットでいろいろな選手の動画を見ることができるので、それを見て研究するのも良いと思います。
(3)ジャンプ力を鍛える…バスケットボールのリングの下に立ち、思い切りジャンプをします。この時、「自分がどのくらいの高さまでタッチできるか」を計測し、次はその高さを超えることを目標にしていきます。例えば、あと少しでゴールネットに届きそうならば、「まずは、ゴールネットにタッチしてみよう」。できるようになったら、「ゴールネットの上のほうをタッチできるようになろう」などと、ほんの少しずつ目標を高くしていくのです。この練習は、毎日継続することが大事。私もチーム練習後の自主練の合間に毎日やっていたら、卒業前にはリングまで届くようになっていました。
3つ目のトレーニングはジャンプ力だけではなく、「腹筋を鍛える」「サイドステップを早くできるようにする」などにも応用できます。「〇分間に〇回できるようになる」といった自分なりの目標を設定して、ぜひチャレンジしてほしいと思います。一人でやるのはもちろん、仲間と一緒にやると一層楽しいし、お互いを励まし合えるのでおすすめです。
また、どのトレーニングも、「なんとなくやる」のではなく、意思を持って取り組むことが大切です。「何が目的なのか」「正しい方法でやっているか」「体のどこに効いているのか」を意識することで、より効果を高めることができますよ!
※掲載内容は2025年7月の取材時のものです。
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